スモールM&A 8つの失敗要因の解説
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前回の事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第9回では「個人M&Aにおける失敗要因」を解説しました。
《前回記事》 |
今回は「スモールM&A 8つの失敗要因」について、解説します。
一般のM&A案件(ここでは売却価額1億円以上の案件とします)と比較し、スモールM&A案件、マイクロM&A案件は、取引金額の手ごろ感から非常に人気があり、M&Aマッチングサイトには、会社経営者のみならず、個人事業主や独立を目指す個人も登録をしています。
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サイトにおいては、買い手・売り手問わず、多くの方がアカウントを取得しており、それだけ事業承継・M&Aが世間に浸透してきた事が伺えます。
ですが、それと同時にスモールM&A(またはマイクロM&A)における失敗や取引事故も増加しており、その危険性がメディアで取り上げられているのも事実です。
これを回避するためには、スモールM&Aの失敗要因を深く理解する事が必要です。
スモールM&Aの主な失敗要因は、
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の、8つが挙げられます。
では、「スモールM&A 8つの失敗要因」を詳しく解説して行きましょう。
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スモールM&A 8つの失敗要因
スモールM&A 8つの失敗要因を、解説して行きます。
※解説の中に、参考記事のリンクも記載してます。併せてご覧ください。
準備不足
会社や事業を売却したいにもかかわらず、必要な資料が全くそろっていない事や、ノンネームシート(簡易概要書)のみを作成し、企業(事業)概要書を作成していない経営者が散見されます。
買い手としては、買収検討する際、どういった会社(事業)であるかや、生み出されるシナジー効果、内在するリスクなどを把握した上で、売り手の希望売却価額と照らし合わせ、買収に踏み切るか否かを決定します。
そのためには、M&Aにおいて必要な資料は何なのかを知り、ノンネームシート(簡易概要書)と企業(事業)概要書を作成しておかなければなりません。
特に企業(事業)概要書は、売却したい会社や事業の詳細だけではなく、アピールポイントやリスクを記載し、案件を「商品化」(M&A上、一般的に案件化と呼びます)する事を目的に作成されます。
これがしっかりと作成されていないと、買い手に詳細が伝わらず、「買い叩き」にあう可能性が高くなります。
必要資料がそろっていない場合は、特に注意が必要で、手に入らないものがあると、譲渡契約はもちろん、交渉すらしてもらえない事もあります。
また、M&Aアドバイザーに業務委託する場合も同様で、売り手が早期に売却を希望したとしても、M&Aアドバイザーは安全交渉・取引に努めるため、必要資料がそろっていない以上、前に進むことが出来ず、期限切れでM&Aを断念する事にもなり得るのです。
自身でM&Aを行う場合は、決して準備作業は怠ってはならず、M&Aアドバイザーに依頼する際は、指示に従い必要書類の収集やヒアリングを受け、企業(事業)概要書を作成してもらいましょう。
《参考記事》
M&Aを成功させる重要資料!ノンネームシートと企業概要書とは!? 赤字の会社でも売却できるか?買い手が評価する3つのポイントとは!? |
事業承継・M&Aの基礎知識がない
企業買収を行おうとしているにも関わらず、事業承継・M&Aの基礎知識が全く欠如している方もいます。
M&Aの手続きや交渉は、非常に難解で複雑なため、M&Aアドバイザーに業務を委託する事が望ましいのですが、その場合でも、基礎知識は身に付けなければいけません。
なぜならば、ある程度の知識がないとM&Aアドバイザーから説明される内容を理解できないからです。
M&Aアドバイザーは職務上、当然に安全取引に勤めるため、よく理解していない(または理解しようとしない)売り手・買い手との業務委託契約(アドバイザリー契約)を締結したがりません。
もちろん、基礎知識のない方は自身でのM&Aも成約する事は出来ません。
M&Aを成約させたいのであれば、まずは自分でも学習する事です。
最近では、M&Aマッチングサイト主催のM&Aセミナーも開催されています。
M&Aの基礎知識が身に付くだけではなく、サイトの上手な活用方法などの説明もあり、セミナーに参加される事を強くお奨めします。
《参考記事》 |
M&Aスキーム(譲渡方法)の検討・確認
M&A上級者向けの論点になります。
M&Aスキーム(譲渡方法)と聞くと、株式譲渡をイメージするかも知れませんが、事業譲渡という方法もあります。(厳密に言うと他のM&Aスキームもありますが)
売り手がM&Aマッチングサイトにノンネームシート(簡易概要書)を登録する際、株式譲渡を選択する事が多々ありますが、案件状況によっては、事業譲渡を選択した方が、売り手・買い手にメリットがでるケースも珍しくありません。
事業譲渡よりも株式譲渡の方が手続きが簡単なため、後者が好まれますが、スモールM&Aの特性上、事業譲渡を選択した場合でも、そこまで譲渡プロセスが煩雑にならないケースも実際にあります。
M&A交渉上、売り手と買い手が合意すれば、M&Aスキーム変更しても全く問題ありません。
また、個人事業も事業(営業)譲渡は可能です。(※M&Aスキームは、実は種類も多く、奥が深いのです。)
両者間でM&Aスキーム(譲渡方法)の検討・確認を行い、最善のスキームを選択するようにしましょう。
《参考記事》 |
M&A計画策定を怠る
スモールM&A上(特にマイクロM&A上)、よくあるケースですが、「ノリと勢いで買収する」買い手も多く存在します。
買収理由は「利益がでているから」「希望買収業種(または地域)だから」というもので、シナジー効果や買収後の運営方法などを全く考えていないケースです。
これはスモールM&A、特にマイクロM&A特有の論点となりますが、買収金額がそこまで高額とならないため、M&A計画策定を疎かにしてしまうのです。
買い手側にとってのM&A計画は、M&Aを成約するまでではなく、買収後の事業を成功させ、その後も事業を拡大させる事を念頭に設計しなければなりません。
そのためには、シナジー効果やPMI(ポスト・マージャー・インテグレイション※これについての詳細は後述します。)を意識したM&A計画策定は必須となります。
ノリと勢い任せのM&A成約は厳禁です!
《参考記事》
スモールM&Aで創出されるシナジー効果とは?4つの種類と事例 |
デューデリジェンス(買収監査)を実施しない
小規模M&Aにおいて、デューデリジェンス(買収監査)を省略したがる方も多くいますが、これは厳禁です。
特にスモールM&Aよりも規模の小さいマイクロM&Aの場合、買収金額も僅少なため、自己判断で、M&Aを成約してしまう方も少なくありません。
確かに、デューデリジェンスには費用もかかり、省略したがるのも分かりますが、財務・税務・法務・労務・事業、その他各リスクを洗い出すのは、慣れていない方には非常に難しいです。
必ず専門家に依頼しデューデリジェンスを実施して下さい。
最近では、小規模M&A向けのデューデリジェンスを実施してくれる専門家もいるので、基本合意を締結するタイミングで相談する事を強く推奨します。
《参考記事》 |
契約書の内容を理解せずに契約締結
完璧にアウトです。
小規模事業者は契約事に慣れていない方が多く(特に売り手)、M&Aマッチングサイトでダウンロードした譲渡契約書を雛形を元に、雑な内容で契約締結する方も実際にいます。
これは必ず取引事故を起こします。
「秘密保持」「付帯合意」「表明保証」「競業避止義務」「損害賠償・補償」「チェンジオブ・コントロール(COC)」等々
理解されてますでしょうか?
そして、弁護士、司法書士のリーガルチェックは受けましたか?
また、厳密に言うと譲渡契約書の締結だけでは、譲渡契約は完了しません。
「株主総会議事録」「取締役会議事録」「株主名簿書換請求」「株主名簿書換承認通知」「委任状」「印鑑証明」「謄本」「開業届・住民票(個人事業の場合)」等々
これらの書類はそろってますか?
この点は、必ずM&Aアドバイザー(専門家)に相談し、内容説明や必要書類の確認を実施しましょう。
《参考記事》
事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第2回「秘密保持の重要性」 事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第7回「M&Aにおける表明保証」 事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第6回「M&Aにおける競業避止義務」 事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第3回「チェンジオブコントロール条項(COC)」 |
経営者になる覚悟が出来ていない
これは個人M&A特有の論点となりますが、あなたは経営者になる覚悟はできていますか?
M&Aを用いるか、自分で会社を立ち上げるかにかかわらず、独立する事は相当な覚悟が必要です。
交渉がうまく進み、あと一歩でM&A成約と言うところで、気持ちの整理がつかず、M&Aを断念する方は非常に多いです。
M&Aは起業に比べ、事業や社員、取引先を最初から保有できスピード感を持ってビジネスを加速させることが可能という大きなメリットがある反面、スタート時から両肩に大きなものを背負う事になります。
そして、M&A成約と同時に経営者としての資質を日々試されます。
そのプレッシャーに耐えられず、せっかく買収した会社を投げ出すような事になっては、今までの努力が無駄になるだけではなく、多くの関係者に迷惑が掛かります。
また、経営者になる覚悟が出来ていない場合、交渉の中で相手方に空気を読み取られてしまい、交渉を中止されてしまうでしょう。
M&Aを検討する前に、しっかりと心の整理をつけ、経営者になる覚悟した上で交渉に臨みましょう。
《参考記事》
個人向けスモールM&A講座 第7回「個人が会社を買うメリット」 個人向けスモールM&A講座 第8回「買収を成功させている人が持っている3つの能力」 |
PMI(Post Merger Integration-ポスト・マージャー・インテグレーション)計画策定が不十分
PMIとは、Post Merger Integration(ポスト・マージャー・インテグレーション)の略で、M&A成約後に実施される、経営統合作業の事です。
M&Aの成功は、成約させることではなく、その後の事業経営にシナジー効果をもたらし、企業価値を高める事です。
そのためには、PMI計画を綿密に策定し、成約後の経営統合作業を速やかに行い、シナジー効果を最大化させることに注力しなければなりません。
そういう意味でも、PMIはM&Aにおいて重要なプロセスであると言えます。
逆に言うと、PMI計画策定が甘いと成約後の経営統合作業が速やかに行えず、シナジー効果を最大化させることができません。
この論点に関しては、説明が非常に長くなるため、下記参考記事を必ずご覧ください。
《参考記事》 |
まとめ
以上、事業承継・M&Aを失敗しないための注意点 第10回「スモールM&A 8つの失敗要因」を、ご説明しました。
スモールM&Aの主な失敗要因は、
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の、8つでした。
スモールM&Aアドバイザーとして、読者の方に強くお伝えしたい事は、
「一般のM&A(ここでは売却価額1億円以上の案件とします)でも、スモールM&A(またはマイクロM&A)でも、手を抜かずに同様のプロセスでM&Aを実行していただきたい」
と、いう事です。
M&Aにおいて、案件の大小にかかわらず、気をつけるべきことは何も変わりません。
取引金額が小さいからと言って、M&Aプロセスに不備があれば、安全取引を行う事は非常に難しいのです。
スモールM&Aを検討し、M&Aマッチングサイトに登録する方が急増する一方、M&Aアドバイザーへの業務委託をしない事やデューデリジェンスの不実施により、M&A契約上のトラブルが多発している事も事実です。
安全な小規模M&Aを実行したいのならば、費用をかけてでもスモールM&Aアドバイザーに相談する事をお奨めします。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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また次の記事でお会いしましょう。
それでは。
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