事業承継・M&Aを失敗しないための注意点第4回「株式譲渡と事業譲渡の注意点」
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事業承継・M&Aを失敗しないための注意点、第3回では、「チェンジオブコントロール条項(COC)」を解説しました。
《前回記事》 |
今回は「株式譲渡と事業譲渡の注意点」についてご説明していきます。
この株式譲渡と事業譲渡という2大M&Aスキームの注意点は読者の方には是非、押さえておいていただきたいポイントです。
中小企業のM&Aスキームは、株式譲渡と事業譲渡が90割以上を占めていて、スモールM&Aを成約する事があるとすれば、この株式譲渡と事業譲渡で実行することになると考えてほぼ間違いありません。
特に事業譲渡は株式譲渡よりもM&Aスキームとして活用する比率が高く、個人事業のM&A場合、株式会社ではないので当然、事業譲渡スキームを採ります。
では2大M&Aスキームの株式譲渡と事業譲渡の注意点はどの様なものがあるのでしょうか?
事業承継・M&Aを失敗しないための注意点、第4回目は、「株式譲渡と事業譲渡の注意点」を、解説致します。
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株式譲渡と事業譲渡の注意点
株式譲渡と事業譲渡の注意点について分けて解説して行きましょう。
株式譲渡の注意点
株式譲渡とは、株式を譲渡することによって経営権を譲渡するM&A手続きです。
株式を譲渡した側(売り手先)はその代価を現金でもらい、株式を譲受した側(買い手先)はその代価を支払い経営権を得るのです。
他のM&Aの手続きに比べ分かりやすく、簡便なため、中小企業のM&Aにおいて最も好まれるM&Aスキームです。
では、株式譲渡の注意点を見て行きましょう。
《参考記事》 |
簿外債務
株式譲渡をM&Aスキームにとする場合、最も注意しなければならない事は、簿外資産についてです。
簿外債務とは、帳簿上には表れない債務のことです。
株式譲渡は包括承継であり、売り手企業の債務も引き継ぐため、簿外債務を引き継いでしまう可能性があります。
簿外債務は売り手自身も気付いていないケースや、買い手がデューデリジェンスを行なっても判明しないことがあります。
新株主となる買い手は簿外債務によって想定外の債務や、訴訟リスクを抱える可能性があるので、ここの調査は綿密に行う必要があるのです。
株券発行か不発行
株券発行会社か株券不発行会社かの確認も必ずとるようにしましょう。
平成18年制定の会社法により、株券は原則発行しません(会社法214条)。
以降に設立された会社は定款で定めた場合に限り、株券を発行することになっています。
株券の発行、不発行によって株式譲渡の手続き方法も変わってきますので、この論点についても注意が必要です。
承認機関
スモールM&Aの場合、売り手企業は間違いなく株式譲渡制限会社(非公開会社)です。
株式譲渡制限会社(非公開会社)とは、会社が発行している株式において、自由に譲渡できないように制限が設けられている会社のことで、第三者に株式を譲渡する場合、取締役会または株主総会の承認を得る必要があります。
この部分、株式譲渡する際の承認機関が、取締役会なのか株主総会なのかで、株式譲渡の手続き方法も変わってきます。
売り手企業の定款を入手しこの論点についても必ず確認しましょう。
事業譲渡の注意点
事業譲渡とは、企業の保有するある一部の事業を譲渡するM&A手続きです。
事業を譲渡した側(売り手先)はその代価を現金でもらい、事業を譲受した側(買い手先)はその代価を現金で支払い、その事業を得るのです。
スモールM&A手続きの中で、最も活用するスキームではありますが、株式譲渡に比べると若干複雑で手間も要します。
では、事業譲渡の注意点を見て行きましょう。
《参考記事》 |
契約の抜け漏れ
事業譲渡の場合、株式譲渡とは異なり包括承継とはならないため、譲渡対象事業の一切の契約を、新規で締結し直す必要があります。
顧客との大口契約から従業員との雇用契約、その他、社内インフラなどの細かい契約についても再度契約や申し込みを行わなくてはなりません。
この点、抜け漏れの確認は重要で、売却する事業の規模が大きければ大きいほど煩雑となり、注意が必要となります。
また、株式譲渡と比較し事業譲渡の方が、チェンジオブコントロール条項(COC)の縛りが強くなる傾向にあるので、譲渡後に重要な契約が解除されることのないよう、十分に注意してください。
《参考記事》 |
競業避止義務
売り手側の注意点になりますが、事業譲渡契約に伴い競業避止義務が課せられます。
競業避止義務とは、事業譲渡後に譲渡した事業と同一の事業は一定期間行わないように定める義務です。
事業譲渡スキームにおいて、なぜ売り手に競業避止義務が課せられるかというと、売り手企業は、取引先やノウハウ、顧客などの事業の重要は情報を熟知しており、新規で開業しても早期に事業を軌道に乗せることが可能です。
つまり、対象事業を譲受した買い手にとってスタート時点より強力な競合が最低1社は増加するということになってしまいます。
このような不利益が生じないよう、競業避止義務を事業譲渡契約の内容に盛り込み買い手保護を図るのです。
そのため、売り手側は事業譲渡後は譲渡対象事業と同一事業を営むことに制限がかかるので注意が必要となります。
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まとめ
以上、事業承継・M&Aを失敗しないための注意点、第4回「株式譲渡と事業譲渡の注意点」を、ご説明しました。
冒頭にも掲載した通り、株式譲渡と事業譲渡という2大M&Aスキームの注意点は読者の方には是非、押さえておいていただきたい論点となります。
また、案件に応じて注意点も変わってきますので、M&Aアドバイザーのアドバイスを受けながらM&Aスキームを進行するようにして下さい。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
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