【中小M&Aガイドライン第3版】
売り手が知るべき5つの変更点と注意点について徹底解説
第1章:はじめに — なぜ今、中小M&Aガイドライン第3版を知るべきなのか?
中小企業にとって、M&Aは後継者不在の問題を解決し、事業を次世代に託すための重要な選択肢として定着しました。
しかし、M&A市場が急拡大する一方で、情報の非対称性や一部の悪質な仲介業者によるトラブルも顕在化しているのも事実です。
このような状況に対応するため、経済産業省が中心となって策定されたのが「中小M&Aガイドライン」です。
本ガイドラインは、当事者がM&Aに関する基本的な考え方や留意点を理解し、トラブルを未然に防止することを目的としています。
2020年3月に初版が公表されて以降、M&A実務の進展と新たな課題に対応するため、2023年9月には第2版、そして2024年8月には最新の第3版へと改訂がされてきました。
今回の第3版への改訂は、特に「不適切な譲り受け側の存在」「経営者保証に関するトラブル」「M&A専門業者による過剰な営業・広告」といった、これまでのM&A実務で明らかになった具体的な課題に対処するために行われました。
| 【参考URL】
中小M&Aガイドラインとは?小規模M&Aアドバイザーが徹底解説 M&A支援機関登録制度とは?小規模M&Aアドバイザーが徹底解説 弊社は、「M&A支援機関登録制度」に、登録されたM&A支援専門家です。 |
法的強制力と実効性の深い関係性
中小M&Aガイドラインは、法的な強制力を持つものではありません。
この事実は、一見するとその効果を疑問視させるかもしれません。
しかし、実務上、このガイドラインは市場における事実上のルールとして機能しています。
この実効性を担保しているのが、中小企業庁が創設した「M&A支援機関登録制度」です。
この制度に登録しているM&A支援機関は、ガイドラインの遵守が義務付けられています。
さらに重要な点として、M&Aに関する補助金(例えば、事業承継・引継ぎ補助金)を受給するためには、この登録機関を利用することが要件となっています。
多くの売り手経営者がM&Aにかかる費用を抑えるために補助金の活用を検討するため、結果として、ガイドラインを遵守する義務を持つ「登録支援機関」を選ぶ強い動機が生まれます。
このように、ガイドラインは法的な罰則ではなく、経済的インセンティブを通じて遵守が促される仕組みが構築されているのです。
これにより、M&A市場の健全化が、特定の業者だけでなく業界全体に波及していくことが期待されます。
第2章:売り手必見!第3版がM&Aにもたらす最大のメリット
直近(2024年8月第3版)のガイドライン改訂は、M&Aの専門家である仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)に対する規律を大幅に強化するものでした。
これにより、M&Aの専門知識を持たない売り手経営者にとって、これまでのM&A市場に存在した「情報格差」が是正され、より公平・公正な取引環境が実現されることになったのです。
市場の透明性向上と情報格差の是正
M&Aのプロセスでは、手数料の算定基準やサービス内容が不透明であることが、当事者間の信頼を損ない、トラブルの温床となることがありました。
第3版は、こうした不透明性や情報の非対称性から生じる問題を未然に防ぎ、市場全体の健全化を図ることを目的としています。
売り手は、交渉の初期段階から手数料体系や仲介者の役割を明確に把握できるようになり、自身の不利益となるような契約を結んでしまうリスクを大幅に低減することができます。
専門家による「公平・公正な」支援の担保
ガイドラインでは、M&A支援機関が「善良な管理者の注意(善管注意義務)」をもって業務を行い、依頼者の利益を犠牲にして自己または第三者の利益を図らないことが明確に求められています。
これは、仲介者自身がM&A成約のためだけに動くのではなく、売り手の利益を最優先に考えて行動することを義務付けるものです。
この指針により、売り手は仲介者が自身の利益を最大限に守るべく行動する、という安心感をもってM&Aに臨むことができるようになります。
第3章:【売り手が知るべき5つの変更点】解説と具体的な注意点
中小M&Aガイドライン第3版の改訂の主要なポイントは7つありますが、ここではM&Aを検討している売り手経営者にとって、特に直接的な影響が大きい5つの変更点に焦点を当てて、その内容と具体的な注意点を解説します。
1. 手数料・提供業務の「見える化」:交渉の余地と確認義務の明確化
中小M&Aガイドライン第3版の改訂で、仲介者・FAは手数料の算定基準、支払時期、成功報酬の定義を明確化し、契約締結前に書面で詳細に説明することが義務付けられました。
特に注目すべきは、買い手側から受け取る手数料についても、売り手に対して説明することが明記された点です(逆もまた叱り)。
また、M&Aプロセスごとの具体的な業務内容、担当者の保有資格、経験年数、成約実績についても説明が求められます。
この変更は、売り手側に大きな影響を与えます。
まず、手数料の算定基準(譲渡額、時価総資産等)や最低報酬額を事前に確認し、不明な点があれば徹底的に質問することが重要になります。
また、成功報酬以外の費用(着手金、月額報酬、中間金など)の有無と金額も明確にし、最終的に支払う報酬の総額を把握する必要があります。
ガイドラインでは、これらの内容に納得できない場合、手数料の交渉を検討することも示唆されており、仲介者は交渉に対して誠実に対応することが求められています。
なぜ、買い手側の手数料まで売り手に開示する義務が生じたのでしょうか。
M&A仲介者の多くは、売り手と買い手の双方から報酬を得る「仲介」のビジネスモデルを採用しています。
この構造は、仲介者に「利益相反」のリスクを潜在的に生み出します。
具体的には、買い手から追加の報酬を受け取ることにより、売り手にとって不利な条件(例:不当に低い譲渡価格への誘導)を優先する可能性があります。
買い手側の手数料を売り手に開示することで、売り手は仲介者がどの程度買い手側に傾倒しているかの判断材料を得ることができ、不当な価格誘導などの不利益を事前に察知・回避する自己防衛の手段を獲得できます。これは単なる透明性向上を超え、M&A市場の情報格差の是正という本質的な課題解決を目指したものです。
2. 悪質な広告・営業からの「防衛策」
M&A支援機関は、虚偽の情報や誤解を招くような広告・営業を行うことが明確に禁止されました。
特に、「譲り受け(譲り渡し)の意向がない企業を意向があると偽る」、「過大なバリュエーションを提示する」、「即時の判断を迫る」といった行為が禁止事項として具体化されました。さらに、広告・営業先から停止の意思表示があった場合、組織的に記録・共有し、ただちに営業を停止することが義務付けられています。
売り手経営者は、DMや営業電話、過剰な提示をしてくる仲介会社に注意が必要です。
今回の改訂により、「これ以上、営業を受けることを希望しない」という意思を明確に伝えれば、仲介者は速やかに営業を停止しなければなりません。
これにより、売り手は自分のペースで冷静にM&Aを検討できる環境が整いました。
この規制強化は、単なる禁止事項の列挙ではありません。
M&A支援機関の「職業倫理」と「組織的責任」を問うものです。
即時判断を迫る営業は、依頼者に適切な検討の時間を与えず、善管注意義務に反します。
また、営業停止の意思表示を「組織的に記録・共有」する義務は、特定の担当者だけでなく、組織全体としてコンプライアンスを徹底する体制を要求しています。
これは、M&A支援機関が単なるビジネスではなく、高い倫理観を求められる専門職であることを示しています。
3. 利益相反行為の禁止:真のパートナーを見極める
仲介者自身や第三者の利益を図る目的で、不当に一方当事者の利益を害する利益相反行為が明確に禁止されました。
具体的には、「買い手から追加報酬を得て、買い手に有利な価格誘導を行う行為」、「一方から得た情報を相手に伝えずに秘匿する行為」、「リピーターを優遇し、他者を不利に扱う行為」などが挙げられます。これらの禁止事項は、仲介契約書に仲介者の義務として定めることが求められます。
売り手経営者は、契約書にこれらの利益相反行為が禁止されている旨が明記されているか確認する必要があります。
また、仲介者は双方から手数料を得るため、構造的に利益相反のリスクを抱えることを理解しておくべきです。
一方、売り手専属のファイナンシャル・アドバイザー(FA)は、売り手の利益最大化を目的に活動するため、利益相反のリスクを避けたい場合に有効な選択肢となります。
仲介者を選定する際は、単に「両手仲介」であるか否かだけでなく、自社の利益を最優先して行動してくれる「真のパートナー」であるかを、過去の実績や姿勢から見極めることが重要です。
4. 経営者保証の扱い:M&A後の人生リスクを排除する
M&Aを通じて経営者保証の解除や移行を確実にするため、M&A成立前に金融機関、専門家、事業承継・引継ぎ支援センターに相談することが推奨されました。
最終契約書において、経営者保証の解除または移行を明確に位置付けることが重要であるとされました。
また、金融機関に対しても、「経営者保証に関するガイドライン」に基づき、M&A後の保証解除・移行について適切な対応を検討することが求められます。
経営者保証は、M&A後も債務保証を負い続けるリスクを生じさせるため、M&A検討の早い段階からその扱いを最重要課題の一つとして認識すべきです。
M&A支援機関だけでなく、弁護士や公認会計士など、専門家チームとの連携が推奨されます。
最終契約書に、保証の解除や移行に関する条項を具体的に盛り込むことで、M&A後のリスクを確実に排除することが可能となります。
この変更は、M&A成約率を向上させるための重要な施策でもあります。
多くの中小企業経営者にとって、個人保証は事業承継の最大の障壁の一つであり、M&Aによっても保証債務から解放されないかもしれないという不安は、M&A自体を躊躇させる最大の要因でした。
ガイドラインが、M&A支援機関、金融機関、売り手の三者が連携してこの課題を解決すべきという明確な指針を示したことで、M&Aが「経営者保証からの解放」という具体的なメリットを持つことが広く認知されるようになります。
5. 不適切な事業者の排除:より安全なマッチングへ
仲介者・FAは、譲り受け側(買い手)の財務状況やコンプライアンスなどに関する調査を詳細に行い、その概要と結果を依頼者に説明する義務を負います。
また、反社会的勢力や法令違反を繰り返す事業者など、不適切な事業者をM&A市場から排除するため、業界内での情報共有の仕組みを構築することが期待されています。
信頼できるM&A支援機関は、買い手候補の「調査の概要」や「実施体制」について、契約前に詳しく説明してくれます。
これを、支援機関を選ぶ際の重要な判断基準とすべきです。
この変更は、買収後のトラブル(買い手による資金の持ち出し、会社の倒産など)を未然に防ぐ上で極めて重要です。
特に、業界内での情報共有の仕組みは、悪質事業者を市場から排除する「ネットワーク効果」を生み出します。
個々の仲介会社が独自に買い手候補を調査しても、その買い手が他のM&A案件で過去にトラブルを起こしていた場合、その情報を得ることは困難でした。
しかし、業界全体で不適切な事業者の情報を共有する仕組みが構築されれば、一度不適切な行為を行った事業者は、複数の仲介会社から警戒され、市場で買い手候補として紹介される可能性が激減します。
これにより、市場全体に悪質事業者を排除する「自浄作用」が働き、売り手はより安全な相手とマッチングできる機会が増えます。
第4章:【実践】M&Aガイドライン活用でM&Aを成功に導くための行動チェックリスト
中小M&Aガイドラインの変更点を理解しても、M&Aの複雑なプロセスの中で、具体的に何をすべきか迷うかもしれません。
そこで、これまでの解説内容を、売り手経営者様がすぐに活用できる実践的なチェックリストとしてまとめました。
M&Aの各段階で、このチェックリストを参考に、不利な契約やトラブルを回避しましょう。
| 旧ガイドライン下での課題 | 第3版の変更内容 | 売り手が取るべき行動 |
| 手数料体系や業務内容が不透明で、費用総額が把握しづらい | 成功報酬を含む手数料の算定基準、業務内容、担当者の実績、買い手側の手数料の明確な説明を義務化 | 仲介契約書を隅々まで確認し、成功報酬以外の費用(着手金、最低報酬額など)の有無と金額を明確にする。納得できない場合は交渉を検討する |
| 過剰な営業や虚偽の情報に惑わされ、冷静な判断ができない | 虚偽の提示、即時の判断を迫る営業、依頼者の意に反する勧誘を禁止。停止意思表示があった場合は速やかに営業を停止する義務 | DMや電話で不審な営業があった場合、「これ以上営業を希望しない」と明確に意思表示する 5。過度な高値提示や即決を迫る業者には注意する |
| 仲介者が買い手側を優先し、売り手の利益が損なわれるリスクがある | 買い手からの追加報酬による優遇、情報の秘匿、リピーター優遇などの利益相反行為を契約書に明記して禁止 | 契約書に利益相反行為禁止条項が含まれているか確認する。売り手専属FAの選択肢も検討し、自社の利益を最優先するパートナーを見極める |
| M&A成立後も、経営者保証を負い続けるリスクがある | M&A成立前の金融機関への相談、最終契約への経営者保証解除・移行条項の明記を強く推奨 | M&A検討の早い段階で、主取引金融機関と経営者保証の扱いについて相談する。最終契約書に保証解除・移行の条件を必ず盛り込む |
| 不適切な買い手とマッチングし、事業が破綻するリスクがある | 仲介者に買い手の財務状況やコンプライアンスに関する詳細な調査を義務化。業界内での不適切な事業者情報の共有を推進 | M&A支援機関を選定する際、買い手候補の調査体制や、不適切事業者に関する情報共有の仕組みに参加しているかを確認する |
第5章:まとめ — 中小M&AガイドラインはあなたのM&Aを「より安全に、より高く」する武器となる
「中小M&Aガイドライン第3版」の改訂は、M&A支援機関の行動規範をより厳格にし、M&A市場を売り手にとってより安心・安全なものへと変革させるものでした。
変更点、特に手数料の透明化や利益相反行為の禁止は、売り手経営者が「より高く」「より有利に」売却するための強力な武器となります。
中小M&Aガイドラインは、単なるルールブックではなく、M&Aの専門家ではない経営者が情報格差を埋め、自信を持って交渉に臨むための羅針盤です。
今回解説した変更点を深く理解し、実践的なチェックリストを活用することで、あなたのM&Aを成功に導くことができるでしょう。
これらの指針は、M&Aプロセスを単なる事業承継の手段としてだけでなく、経営者が人生の集大成として築き上げた事業の価値を、正当かつ安全に次世代へ引き継ぐための重要な基盤となるのです。
最後までお読みいただき、誠にありがとうございました。
中小企業のM&Aは、売り手様・買い手様の一期一会のご縁によりご成約されるものです。
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